
料理をしている途中で「あれ、どこだっけ」と手が止まったことはありませんか。私は賃貸に住んでいたころ、これが毎日のことでした。
フライパンを出そうとしたら鍋が重なっていて取り出しにくい。調味料を探したら奥のほうに埋まっていた。菜箸がどの引き出しに入っているか分からなくなる。ひとつひとつは数秒のことなのですが、これが積み重なると、料理そのものが面倒になってきます。
注文住宅を建てるとき、私がキッチン収納にいちばん時間をかけたのは、この「手が止まる」をなくしたかったからです。設計士さんとの打ち合わせで、キッチン収納の話に使った時間は、ほかのどの部屋よりも長かったと思います。
そして実際に暮らしてみて分かったのは、手が止まる原因は収納の量ではなく、置いている場所だったということでした。
我が家のキッチン収納を、正直にお見せします
まずは今どうなっているかを書いておきます。
- コンロ下の引き出し……鍋・フライパン・フタ。深さがあるので立てて入れています
- シンク下……洗剤・スポンジ・ゴミ袋のストック
- 調理台横の引き出し……菜箸・おたま・フライ返しを、使う頻度の高い順に手前から
- 調理台の上……毎日使う調味料だけ。残りは引き出しの中
- 吊り戸棚……年に数回しか出さない製菓道具と来客用の食器
- キッチン横のパントリー……食品のストック、まとめ買いした飲み物、出番の少ない調理家電
並べてみると分かるのですが、特別なものは何も入れていません。やったことは「どこで使うか」で置き場所を決め直しただけです。
それでも、賃貸のときと比べると料理中に歩く回数がはっきり減りました。パントリーがあるおかげで、キッチン本体はいつもすっきりした状態が保てています。
使う場所の近くに置く、を徹底すると何が変わるか
コンロで使うものはコンロの前で、シンクで使うものはシンクの前で取れる。言葉にすると当たり前すぎるのですが、やってみると料理中の動きが本当に減ります。
たとえば、鍋に水を入れて火にかけるという動作ひとつでも、鍋がシンク下にあるとコンロとシンクを往復することになります。コンロ下にあれば、しゃがんで出して、そのまま使えます。
一日に何度も繰り返す動きなので、ここが短いと、夕方の疲れ方が違ってきます。
設計で失敗したこと、三つ
よかったことばかり書いてもしかたがないので、失敗も正直に書いておきます。どれも「場所」にまつわる失敗でした。
パントリーの棚を固定にしてしまった
これがいちばんの反省です。大きめの調理家電を入れようとしたら、棚と棚の間の高さが足りませんでした。棚板を動かせない作りにしてしまったので、調整のしようがありません。
結局その家電は、リビングの一角に置くことになりました。使う場所はキッチンなのに、取りに行く場所はリビング。まさに手が止まる配置です。
打ち合わせのときに「棚板は動かせますか」と一言聞いておけば済んだ話でした。これから作る方は、図面に棚の線が引いてあったら、そこが固定か可動かを必ず確認してみてください。
吊り戸棚の奥行きを深くしすぎた
たくさん入るほうがいいと思って、奥行きを深めにしてもらいました。ところが、奥に置いたものは見えなくなって、そのまま忘れます。「これ、いつ買ったんだっけ」というものが、何度か出てきました。
浅めにして見渡せるようにするか、引き出し式にして引っぱり出せるようにするか。どちらかにしておけばよかったと思っています。
深い収納は、入る量は増えますが、取り出す手間も一緒に増えます。量と取り出しやすさは、どこかで引き換えになるのだと、住んでから実感しました。
収納の中にコンセントを付けなかった
カウンター下の収納の中に、電源を用意しませんでした。そのため、電気を使う調理器具は使うたびに外へ出して、終わったらしまうことになります。
出し入れが面倒だと、だんだん使わなくなります。これも、手が止まる例のひとつでした。
場所を決めるときに使っている三つの物差し
失敗も含めて暮らしてみて、置き場所を決めるときはこの三つで考えるようになりました。
- どこで使うか……使う場所の正面か、一歩で届く範囲に置く
- どのくらいの頻度で使うか……毎日のものは手前と腰の高さ、たまのものは奥と上
- 開けたときに見えるか……扉の奥で見えなくなるものは、二重買いか使い忘れが起きる
三つめは見落としやすいところです。見えない場所にしまうと、持っていること自体を忘れます。食品なら傷ませてしまうこともあります。
よく使うものは、引き出しを開けたら一目で全部見える状態にしておく。それだけで、探す時間がなくなります。
確かめ方は、手順を書き出すこと
図面の段階でこれを確かめる方法があります。朝ごはんを作る手順を、紙に書き出してみるのです。
水を汲む、火にかける、冷蔵庫から出す、切る、皿に盛る、洗う。この順番を書いたら、それぞれの動作で何を手に取るかを横に書き足していきます。
そうすると、同じ場所で使うものが自然にまとまってきます。そのまとまりを、図面のどこに置くかを決めていく。これが、使いやすいキッチンへのいちばん近い道だったと思います。
夕飯の片づけでも同じことをしてみると、朝とは違うまとまりが出てきます。両方を見比べて、ぶつかるところだけ相談する、という進め方でちょうどよかったです。
キッチンだけの話では終わらなかった
ここまでキッチンの話を書いてきましたが、暮らしはじめてから気づいたことがあります。使う場所の近くに置く、という考え方は、キッチンの中だけで完結しませんでした。
子どもが学校から帰ってきて、水筒を出す。買い物袋を提げて帰ってきて、冷蔵庫へ運ぶ。洗い物をしながら、宿題を見る。キッチンの前には、家族の動きが何本も通っています。
だから収納の場所を決めるときも、自分が料理する動きだけでなく、そこを通る人の動きまで含めて考えておくと、あとで直したくなる部分が減ります。私はそこまで見きれなくて、水筒の置き場を住んでから作りました。
家づくりの相談をするときも、設備の仕様から入るより、家族がどんなふうに一日を過ごしているかというところから話したほうが、こういう部分は拾ってもらいやすくなります。暮らしの流れから考えてくれる相手なら、収納の寸法は一緒に詰めていけます。
これから家づくりをする方へ
キッチン収納は、広さや数で決まるものではありませんでした。使う場所に、使うものが置けているか。見返してみると、うまくいっている部分も、失敗した部分も、全部ここに集まっていました。
まずは、いつもの料理の手順を紙に書き出してみてください。それだけで、自分が何をどこで使っているかが見えてきます。
そして、まだ漠然としている段階でも、一度相談してみるという進め方があります。私も最初は「こんな状態で行っていいのかな」と思っていましたが、実際に暮らしている家を見せてもらいながら話すと、自分が何を気にしているのかがはっきりしてきました。実際の収納の配置を見に行く、住んでいる方の話を聞いてみる。そういう確かめ方があることを、知っておいてもらえたらと思います。